雪割草

 ガラス越しの香奈は一度だけ瞬きをした。

スーッと頬を伝う透明な雫が光った。

何かを伝えようと、ガラスの扉を叩くのだけれど、シローにはうまく聞き取れなかった……。

 やがて、短いクラクションが辺り一面にこだますと、タイヤはアスファルトの上を回り始めた。

エンジン音が段々と細くなってゆく……。

誰も知らない場所へと連れて去って行くようだ。

シローの心の中を木枯らしが吹き抜けていった。

心の隙間を繕うように……。

ふと、握ったままの手のひらをほどいてみると、乾いたジャガイモの皮が収められていた。

ひなびた茶色い彼女の証しを凝視していると、目頭が熱くなる思いがした。

シローはジャンパーのポケットに両手を入れ、香奈の幸せを心から祈っていた……。

がんばれよ……。