「じゃあ、親父が慌てて出て行ったのは、違う理由なのかよ…」 そう言うと、母さんは少しだけ笑った。 「お父さんが慌てる時は、大事なものを守る時だけ」 大事なもの…? 「お父さんね、反省してたよ。勇人の気持ちを無視してた事。女の人を好きになる気持ち、よく分かってるはずだから」 まさか…。 あの親父が…? と、その時だった。 玄関が慌ただしくなった。 「お父さんが帰って来たんじゃない?」