お嬢様、お手をどうぞ

大豪邸の近くまでくると、門の前に小さな影が立っているのが見えた。


いつもの真っ白ルックでは無く、むしろ真逆のパンクな恰好だったので一瞬誰かと思った。上は黒、下は真っ赤。


「ぅわぁぁいっ…!いらっしゃい、優仁くんと美森くん」


俺たちを見つけると証明は門の前から小走りでやって来た。
よく見たら、髪もちょっとハネた感じにスタイリングされている。いつもサラサラの直毛なのに。


「お誕生日おめでとうな、証明」
「うん、ありがとう美森くん」


キレイにセットされた頭をぐしゃぐしゃ撫で回す美森。
案外気持ちがいいのか、最初の一瞬は『えへへー』とか笑っていた証明だが、今日の髪型を思い出したのか必死に逃げ回っている。


「助けてぇ、優仁くぅんん」


破れたような加工がされたシャツの袖口と裾と背中が、走ると後ろへたなびく。


背中?


「捕まえたぜえぇ、プチデビルう〜」


「きゃー」


僕のところへ辿り着く前に、証明はあっさりと肉食獣に捕らわれた。
くすぐりの刑にあっている。


「キャハハハハ、や、めてー」


くすぐりから逃れる為、くるりと後ろを向いたその背中には布地の蝙蝠の羽根が付いていた。
さっき見えてたのは、これだな。



「証明には、似合わないなこの羽根」


くすぐりが終わったところで、近付いて摘まんでみた。
簡単に取れそうだったのにそうはいかなかった。


「んん?そうかな」


またくすぐられはしないかと、脇腹をブロックしながら背後の僕に振り返った。


「あー、そうだなぁ。証明にはどちらかっていったらデビルよりエンジェルだよなっ」


肉食獣・美森は戦闘体勢を解いてこちらへやってきた。


「あ、それは思った」