お嬢様、お手をどうぞ

「中庭が見たかったら、明日案内してあげるよぉ」


席に着く前に、天使のような笑顔で証明はそう言った。



―…そして、今。
誕生日当日。
僕と証明の誕生日パーティの日。
因みに、証明の誕生日は正確には明日。


「…居る訳無いよな?」

証明んちへの道すがら、自分でも気付かないような独り言を呟きながら歩いていた。


でも、な…。
あの証明の口振りを思い出した。


中庭からも見えるようにしてあげたかった、とか言ってなかったか…?



中庭からじゃないと、その離れからじゃないと見られない存在が居るんじゃないのか?


…ぞぞぞ。


背筋から嫌な感覚が這い上がってきて、僕は思わず身震いをする。


…実は、その。
苦手なんだ、怪談とか怪奇現象とか…人のようで人で無いもの、とか。


証明へのプレゼントが入っている紙袋の取っ手は、僕の汗で随分湿っていた。


一昨日までは豪邸に行けると舞い上がっていたというのに。


行くの嫌になってきた。
身体の調子が悪い、とか言って行くのやめようかな。


美森のバカヤロウ。


「ぶえっくしょいっ!」


美森を軽く呪ったら、そこの曲がり角から豪快なくしゃみが聞こえてきた。



…あぁ…。
つくづくバカヤロウ…。

「っっくしょいっ!!…おぅ、優仁。俺、風邪ひいたんかな」


馬鹿は風邪ひかない。


「………おはよ、美森」

「ん。おはよう、一緒に行こうぜ」


僕の希望は、ここに費えた。