「キカイ」の子

ようやく空が白くなり始めたがまだ太陽が上る気配がない。




朝靄が街を覆い、その中を冬彦は夏美を背負ってゆっくりと歩いていた。






行き交う人もなく、幻想的な空間に、彼らはどこか別の場所に迷い込んだような気分になった。






「ねぇ…?冬彦…重くない?」




夏美が呟くように冬彦に訊いた。




「……全然。」



冬彦は軽い口調で夏美に答えた。




「……どこに行くの?」




「……ないしょ…」



「……なによ、ソレ。」



「行けば……分かるよ。」



「ふぅん……」





冬彦も夏美もハッキリとは言わず、どこかこのまったりとした会話を楽しんでいた。





「ね……冬彦?」




「う~ん?」




「重くない?」




「……全然!」




二人のクスクス笑う声が朝靄の中で響く。




そして、しばらく進むと長い坂が見えた。









冬彦の家がぼんやりと坂の上の方に見えた。