「キカイ」の子

聡達からの命令の絶対性を崩したのは、夏美という存在だった。






彼女の存在は、聡達からの命令と相対する部分が幾つもあった。







聡達からの命令の背景には、勉強して、いい学歴を得て、いい職業に就くことが、人生において最も重要なことであるという考えがある。








しかし、夏美は勉強が得意というわけではない。



だからといって、冬彦にはそれが不幸だとは思えなかった。





さらに、夏美は冬彦のような、所謂、良い家柄の人でもない。





だが、やはり冬彦はそれを不幸だとは思えなかった。







つまり、夏美という存在は、エリートになれという聡達からの命令と正反対の結晶のように冬彦には見え、それは彼の心を大きく揺さぶった。












…僕はどうして勉強しているんだろう?勉強したからといって幸せになるとは限らないのに…それなのに、何で大人は勉強すれば良い人生を歩めるだなんて…まるで宗教みたいに信じているんだろう…








冬彦がそうやって考え込んでいると、夏美が心配そうな顔で彼の顔を覗きこんで話し掛けて来た。