「もう!お兄ちゃんのバカバカ!!早く起きてるくせに、何で起こしてくれないのよ!!」

私は階段を1つ飛びにドタバタと降りながら文句を言うと、リビングの扉を開けた。

「あら、お、そ、よ、う。響。健二ならもうとっくに学校に言ったわよ」

嫌味もタラタラにママが、私の目の前にトーストを置く。

「間に合わないからいらない!」
「もうっ、せっかく焼いたのに!!」
「じゃ、行って来る!」
「あ、響。今週の土曜日は友達との約束とか入れないでよ!」
「分かってる!15周忌だよね」
「分かってればよろしい」

私はスポーツバッグを掴むと、三つ編をしながらバス通り目指して走り出した。

健二お兄ちゃんの本当の家族は別にいた。

そのことを両親は中学生になったばかりの頃、私に教えてくれた。


それまで、いつも不思議に思っていた謎が一つ解けた。

「どうしてお兄ちゃんは長男なのに、『健二』なの?」

小学生の頃の私の無邪気な質問に、困った顔したお兄ちゃんがいた。

お兄ちゃんは、昔、三人兄妹だった。

長男の慎一さん、それから、『健二』お兄ちゃん、そして、妹の洋子ちゃん。

今からちょうど15年前……。

対向車が曲がり切れず、お兄ちゃん一家は事故に巻き込まれた。

そして、唯一一人、健二お兄ちゃんだけが助かった。

そのお兄ちゃんを引き取ったのが、遠縁にあたる私たち家族だった。