「彼女の、名前は?」

俺の目線に気付いたのか、レイがそう聞いてくる。

「歩美だよ。今年に入ってすぐ、フラれたけどね」


「でも、海はまだ、好きでしょ。歩美さんのこと」

断定的な言い方にギクリ、とする。

女というのは、どうしてこうも勘が鋭いのか。


「海はあたしに、体だけの関係じゃ嫌だって言った」

レイが体を寄せ、俺の耳元に顔を寄せる。

「ああ、言った。本音だ」

近すぎるほどの距離に、俺が反応しているのを楽しむかのように、口を開く。


「一人の男が二人の女を幸せにするなんて、無理だよ」

ふふっ、と渇いた笑いを漏らす。

まるで、吐息のようなその声が俺の耳をくすぐった。