濃いグレーのスリムスーツはオーダーメイドだろう。いかにも高級そうだ。
髪もきっちりセットしてあり、上品な佇まい。
歳は叔父貴よりちょっと上ぐらいだろうか。三十路前って感じだな。
「鴇田(トキタ)」
あたしは顔を上げた。
叔父貴の会社で、経理部を統括している常務取締り役兼秘書的な仕事をしている男だ。
もちろんその筋のもんで、青龍会の傘下、鴇田組の組長を兼任している。
鴇田は叔父貴から厚い信用を得ているようで、叔父貴が会社を立ち上げたときから、この役職を約束されていた。
マネーロンダリング
資金洗浄―――犯罪によって得られた収益金の出所などを隠蔽して、一般市場で使っても身元がばれないようにする行為
こいつはそれをする言わば青龍会の金庫番とも言える男だ。
あたしはこいつを蛇田(ヘビタ)と影で呼んでる。
切れ長の鋭い目は、威嚇するときの蛇そっくりだから。
鴇なんてきれいな鳥の名前なんて、こいつにはもったいねぇ。
それに……こいつは何かいけすかねぇ。
何考えてるのかさっぱりだし、そのくせ野心だけは持っていそうで正直……
怖い。
“あの男”とかぶるところがある。
蛇田を見ると“あの男”のことをいやおうでもなく思い出す。
さっき見た夢のせいかな。
封印したはずの過去を―――記憶を……呼び起こされる。



