あたしが掌を宙に捧げると、桜の花びらが一枚ふわりと舞い落ちてきた。




「きれいな桜だね」



ふいに背後で声がして、あたしは文字通り飛び上がりそうになった。


「び!……くりしたぁ」


パジャマ姿のメガネが、背後に立っていた。


「そんなにびっくりすることないじゃない」


メガネはくしゃっと苦笑いをした。





いや……だって、全然気配を感じなかったぜ、こいつ……


まるで空気のように、風のように。気付いたら、そこにいる。


あたしは薄ら寒い何かを感じた。


背中を嫌な汗が伝い落ちる。






「ど、どうしたんだよ。こんな時間に」


「眠れなくって。桜でも見たら気分が落ち着くんじゃないかって思ったんだ」


「あ、そう」


あたしは内心の動揺を悟られないようにことさら何でもないような顔をした。


「それ、なに?」


あたしの手の中のマグカップを指でさす。


「ココア。お前も飲む?」


「じゃぁ半分下さい」


にっこり微笑み、あたしの隣に腰掛けるのはいつものメガネだった。