結局、戒はそれきり黙りこんでしまった。


あたしの存在なんて見えてないように、マイペースに三味線を引き寄せると、また撥を鳴らし、弦をかき鳴らす。


どうしていいのか分からずに、あたしはその場でじっとしていた。


上手いけど、相変わらず何か不安や隠し事をしているような不安定な音色。


やがて途中で三味線をかき鳴らす手を休めると、戒はおもむろに顔を上げた。


小さく決意したように、琥珀色の瞳の中に光りが宿っている。


「朔羅……キャンサーセンターのことだけど…」


「え?あのイカガワシイ店のこと……」


「えーっと…それはだなぁ」


戒は珍しく歯切れの悪い物言いで、頭を掻いた。


「……何だよ…」言いかけたところで、


バン!と襖を蹴破るような勢いで、


「おいメガネ!今何時だと思ってやがる!!」と予告もなしにマサが怒鳴り込んできた。


あたしも戒もびっくりして、顔を合わせ、同じタイミングでマサを見上げた。


「…お、お嬢!?どうしてお嬢がメガネの部屋に!?ま、まさかメガネ!!お嬢に変な気を起こしたんじゃ」


マサが血相を変えて、戒を睨んだ。


マサ…怖ぇよ。


「違う違う。えーっと…これにはわけがあって」


あたしはあたふたと手を振ったが…いかん。何にも言い訳が思いつかん。


「僕が朔羅さんに琴を見せてあげようと思ったんだ♪朔羅さん、好きだって言ってたからさ。


第一僕が朔羅さんに変な気起こしたら、僕は今こうして生きてられないですよ~」


とにこにこ答える戒。


相変わらず…



変わり身の早いヤツ!