今時のヤクザはベンツなんて大それたもの、乗らない。
何故なら、狙ってください。と言わんばかり目立つからだ。
あたしは目を凝らした。
セルシオは、ビルの正面玄関に到着すると、見慣れた若い男が道路側の後部座席から降りてきた。
仕立てのいい細身のスーツ。
いつもきっちりセットしてある黒い髪。
どこまでも影が伸びてきそうな、スラリとした身長と、背中から漂う威圧感。
間違いない。
「叔父……」
と手を挙げ、呼びかけようとしたけど、あたしは最後の言葉を飲み込んだ。
叔父貴が歩道側に回り、後部座席のドアを自ら開けて、中にいる人物の手をとっている。
深い紺色に銀色の大きな牡丹の花を散りばめた着物姿の美女をエスコートしていた。
髪はきっちり結ってあって、鼈甲のかんざしが一つ刺してある。
うぉおおおお!!
和服美人!!!
って!違~~~う!!
誰だよ!その女!!!



