こいつ。
あたしの予想している男なら―――
間違いない!
あたしはリコを振り返った。
「リコ!あたしが良いって言うまで目を閉じてて!」
「え!?何で……」
「いいから!!絶対開けちゃだめだよっ!」
あたしが眉を吊り上げてリコの両腕を掴むと、その剣幕に押されてかリコは何とか小さく頷いて目を閉じた。
あたしの考えが当たっているなら―――
あたしは走り出した。
コートの男の右と左にあたしたちを襲おうとした男たちが拳を振り上げてコート男に向かった。
挟み撃ちか!
そう思った瞬間、コート男は軽やかに身を翻し、宙返りをするとセダンのボンネットに飛び乗った。
黒いコートの裾が翻り、中の裏地がちらりと見える。
それは街中で良く目にするバーバリー柄だった。
バーバリーのマフラーが欲しかったんだけど、高かったんだよなぁってそんなこと考えてる場合じゃない!!
何てぇ跳躍力。あたしが睨んだ通り、足腰が異常な程鍛え上げられてる。
コート男に向かっていた男たちはそれぞれ勢いをつけた仲間のパンチを食らってみっともなく地面に転がった。
コート男がボンネットの上にしゃがみ込み、頬杖をついた。
「あ~らら。相打ち?みっともないなぁ」
その声音には楽しんでいるような色を含ませていた。
こいつ……
あたしはボンネットから1メートル程離れたところで脚を止めると、ボンネットの上のコート男を睨み上げた。
「あんた。虎間だろ?」



