「俺がいつあいつを不安にさせて、傷つけたって言ってんだよ」


俺は響輔に顔を近づけると、こいつを間近に睨み上げた。





「……今はまだ…軽い口喧嘩で済んでます。お嬢だって素直になれないから突っ張ってるだけで……


でもいずれあなたのことを知って真実を知ったら、あの人はきっと深く傷つく」


俺はそれを見るのが辛いです。


響輔は最後にそう続けて口を噤んだ。




俺が朔羅を傷つける――――?





「勘違いすんなよ。話を持ち出してきたのは“あっち”なんだ。傷つけるのは俺じゃねぇ。


龍崎 琢磨だ」






「そう……ですね」


響輔はちょっと悲しそうに口の端を歪めた。


すぐそこにある事実がそうであるように。現実が歪んで捩れてるように。


響輔は俺の手の中にケーキを置くと、俺の手にしっかりとケーキを握らせた。





「戒さん。どうかお嬢の支えになってあげてください」


「お前に言われなくてもそうするつもりだよ」


俺はそっけなく言ったが、離れていく響輔の手はまだ不安を残しているようで名残惜しそうだった。





直感―――じゃないな……



こんなにも分かりやすく響輔の気持ちがひしひしと伝わってくる。


お前も朔羅のことが好きなんだな……





響輔が俺の部屋から立ち去って、手の中にあるケーキはまるで温かさを失ったように冷たく感じた。




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