「朔羅さん、もう戻って……」


と言いかけてメガネは口を噤んだ。


目はキョウスケの手元にあるケーキを追っている。


「それ……調理実習の?」


「そうだよ。誰にもやる奴がいねぇから、こいつにやったんだ」


あたしの答えにメガネはたっぷり時間を含ませて、






「ふーん」





とつまらなさそうに唇を結んだ。



な……!


何だよ!!その不服そうな顔はぁ!!!


メガネは不機嫌そうに顔を背けると、何も言わずにあたしたちの横を通り抜けた。


すたすたと無言で廊下の向こう側に消えると、


「何だよあいつは」とあたしは思わず悪態をついた。




キョウスケは何がおもしろいのかクスクス忍び笑いを漏らすと、





「メガネくんはお嬢のケーキが欲しかったんじゃないですかね?」




と聞き捨てならねぇことを言った。