「あのさ。俺、全然怒ってないから」
「え?」
思いがけない一言に、あたしの中の怒りが一気に治まってしまった。
「嘘でしょ?」
「嘘じゃない」
「いや、嘘でしょ」
「嘘じゃないって」
「いやいや、あれは嘘でしょ。だって隆彦――」
「嘘じゃない! 俺はほんとに怒ってない! 信じてくれっ!」
隆彦の言葉にあたしは動揺した。
「だ、だって……隆彦、昨日、勝手に一人で帰っちゃったじゃんっ」
慌てて言葉を発したものの、噛んでしまった。
「あれは……! 歩いてたら、いつの間にか麻子が消えてて。ちょっと引き返したんだけど、見つかんなくて、諦めて帰ったんだ。ほんとごめん」
あたしは面食らった。
口は無意識にあんぐりと開いている。
嘘だ。嘘に決まってる。
ていうか嘘だと信じたい。

