「いつも控えめな女の子が突然向こうから迫ってきたり。いつもパンツスタイルな女の子が突然ミニスカはいてきたり。いつもモノトーンな下着しかつけない女の子が突然ピンクのフリルで甘えてきたり」


「何が言いたい」


「けっきょく男はギャップに弱いってこと。変わりばえのない毎日より、刺激的な毎日がいいってこと」


「バカバカしい。ほら、さぼってねーで働け!」


「へいへい」


藤堂さんの足音がだんだんと扉に近づいてくる。


このままだと今の話を立ち聞きしたことがバレちゃう!!


焦ったあたしは、なるべく音を立てないように、とりあえず扉から離れて10メートルくらい走った。


そこで少し息を整えてゆっくり振り返り、何事もなかったようにもう一度社長室に向かって歩き出す。


ちょうどその時、社長室の扉が開いて藤堂さんが出てきた。


「光姫ちゃん」


あたしに気付くなりニコリと微笑む藤堂さん。


今のあたし、こめかみのあたりに怒りのマークがついていないかな。


「藤堂さん、お疲れ様です」


「悠河が待ってるよ。光姫ちゃんいないとソワソワしちゃってさ。ダメだね、もうあれは」


「ははは」と笑いながら楽しそうに去っていく藤堂さんの後姿を見送った後、大きく深呼吸して社長室の扉を開けた。


「行ってきました」


「あぁ、サンキュ。……なに?どうかしたか?」


「え!?」


「いや、ボーッと突っ立ってるから」


「あ……」


さっきの話が頭から離れない。


『悠河は、ピンクのフリフリが好きなの?』

なんて聞けるわけもなく。



「光姫?」


「……ッ。社長、今日は私、定時ですぐに帰宅させて頂きます!」


「は?あ、あぁ……」


悠河の周りに“?”マークがたくさん見えたけれど、何も言わずあたしも自分の机に戻った。