「いえ、別に」

 小巻はそれ以上返す言葉が見つからず、伊藤が自分の近くの席に腰を下ろすのをぼんやり眺めていた。

「まあ、座って話しましょう」
「はい」

 曖昧に頷き、目の前の席に腰を下ろして伊藤と向き合う。微妙に離れた位置だが、話せない距離ではない。これが最大限に譲歩した小巻と伊藤の距離だった。

「元気そうで良かったわ」
「そうですね。元気ですよ」
「うん、うん、良かった」

 ぎこちない伊藤の様子に居心地が悪くなり、小巻はにっこり笑みを作る。