放課後の教室は閑散としていて寂しい。湿っぽいにおいとセピア色の空気が見えた。胃がずくりとして、おへその下あたりがきゅっとなる。小巻は大きく息を吸い込み、窓際に足を向けた。見下ろした先のグラウンドでサッカー部が練習しているのが見える。

「藤代さん、お待たせ」

 担任の声が静かな教室に響く。小巻はゆっくり振り返った。小巻の担任である伊藤は、ぽっちゃりした顔にピンク色の口紅が印象的な中年女性だ。ソバージュの髪をバレッタでまとめており、女と母親と先生の顔が曖昧に混ざり合った雰囲気を持っていた。
 正直なところ、小巻は伊藤が苦手だ。