あの頃から君は

 頭から降ってくる優しい声に促されて、美羽はたがが外れたように泣いて、(その間に何人か声を掛けられたけれど、男子が上手く誤魔化してくれた。)それから冷静に自分の状況を考える。穴があったら入りたいとはこの事だ。知らない男子の前で馬鹿みたいに泣いてしまって、恥ずかしくて顔が上げられない。

「落ち着いた?」

 そう告げる男子の声色は、それでも静かで優しい。美羽は小さく鼻をすすった。

(なんか良い人だな。誰だろ)

 美羽はそっと顔を上げ、ぽかんとする。伺うような表情で自分を見下ろしていたのは、クラスメートの渋谷総司だった。

(・・・うわ、最悪かも)