「あっちの世界に引き込まれないよーに気をつけなさいよ。」

「え?」

「オトコ運最悪で、最終的にはアブノーマルに走ったなんて笑い話にもなりゃしないんだからね。」

「ははは・・。」

あたしは思わず苦笑する。

まあ、それはないとは思うけど・・。

「なんか、憧れちゃうの。」

「ほら危ない!」

茜ちゃんが目を見開いてあたしの顔を指差す。

「ち、違うよっ!そういうんじゃなくてっ。何にもしなくても、あんなに綺麗だなんて、羨ましいなあって・・。」

「・・そうかねえ?」

あたしは努力しないと、可愛くはなれない。でも彼女は違う。圧倒的に。
それが、羨ましいんだ。

だけど茜ちゃんは訳が分からなさそうに、首を傾げた。

そんな茜ちゃんに、あたしは知らず知らず笑顔になった。














「じゃあね、更紗。」

「うん、部活頑張って。」

「もち!」

茜ちゃんはテニス部で、あたしは帰宅部。中学のときはテニス部だったけど、高校からはバイトを始めたからやめた。

茜ちゃんはラケットを背負って、元気よく教室を出て行った。

さて、あたしも帰ろうっと。



下駄箱で靴をはきかえ、校門へ向かう。

すると、前を歩く生徒たちが、校門を通り過ぎるとき、物珍しそうに脇を見ている。


なんだろう?


あたしはそう思いながら、校門を出ようとすると・・・。


「・・・更紗?」


校門の脇に座り込んでいた男が、あたしの名前を呼んだ。
その声が、元カレに似ていて思わず振り返る。


「・・やっぱり!更紗だ!会えてよかったー。」

あたしを見るなり、男は嬉しそうに笑ってあたしに近づいてくる。

「し、伸吾(しんご)・・。」

彼の名前を呼ぶと、さらに嬉しそうに笑った。