「じゃあ・・お父さん、お母さん、行ってきます!」


6畳1間のボロアパート。
狭い部屋の真ん中に置かれたローテーブルの上に、いつも飾ってある両親の写真に、挨拶を告げた。

コレが、あたしの毎朝の儀式。

ブレザーを羽織り、カバンとお弁当の入ったトートバッグを持って家を出る。
戸締まりはしっかりと!

ガチャン。

「よし、閉めたね。」

二度、手でドアノブを回し、きちんと閉まっていることを確認してから、あたしは歩きだした。


「・・あ。」

少し歩きだすと、目の前にいつものおばちゃんを見つけた。

「おはようございます!」

「あらおはよう!更紗ちゃん今日も元気で可愛いわねえ!」

声をかけると、笑顔で応えてくれた。

このおばちゃんはご近所さんだ。縁もゆかりもない人だけれど、あたしがココへ一人で来た時から、よくあたしを気にかけてくれている。


「更紗ちゃん朝ごはん食べたの?」

「はい、食べました!」

「そう、それならいいわ。今日はバイト?」

「いいえ、今日はないです。」

「まあ!じゃあ家にいらっしゃいよ!たまには一緒に夕飯食べましょう!」

「ええ!?いいんですか!?」

「ええ、もちろん!」


ああ、やっぱりいい人だ~。

朝からこんなに嬉しい出来事があるなんて、今日はついてるかもっ!

「じゃあ、お言葉に甘えて!」

「ええ、待ってるわ。気をつけてね。」

「・・はいっ、行ってきます!」


その言葉にお母さんを思い出した。

もう二度と、お母さんに言ってもらえることはないけれど、今はこうして別の誰かが、あたしを気にかけてくれている。

うん、幸せなことだよね。


なんだか元気満タンになったあたしは、家からほど近い学校まで走り出した。