ウタカタ



「ち、違う・・んです、か?」


仁王立ちであたしを見下ろしている宮本さんが恐ろしくて、声が上擦る。


だって、そのまま読んだら「みわ」じゃないか!!

そう思うけれど、声にはしない。
いや、できない。



「・・違う。その読み方されるの、俺すごい嫌い」


蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかる。
絶対こんな気分。


「な、何て・・読むんです?」

とりあえず正解を知らないとどうにもならないし、黙っていたら居たたまれなすぎて、必死で喉から声を出す。


「知らん。自分で考えろ」

端的に落とした声は、まだ怒りを含んでいる。
無表情だし。


抗ったらさらに機嫌を損ねるだけだ! と確信して、もう一度さっきの書面に目をやった。


「みやもと・・み・・」

そこまで読んだあたしを遮るように、声が落ちる。

「み、じゃない」


え、と思って反射的に顔を上げる。

宮本さんと目が合った。


「み、じゃない」

少しだけ眉を歪めて、繰り返す。


ああ、そこから違うのか。

言いたいことを理解して、「美」の字を見る。


違う読み方、確かあったはず。


「・・よ、し」

零れるように落ちた音。


そうだ、確か、そんな読み方ができた。

振り返って宮本さんを見ると、目を見張っている。


その顔だけで、正解だと知る。


「よし、かず?」


見つめたまま、あとを続けた。

「・・あ、ああ・・・」

絞り出すように、肯定する。


正解したことが単純に嬉しくなって、頬が緩んだ。


にっこり笑ったあたしを見て、宮本さんの眉が歪む。


「よく読めたな」


口惜しい、と言うように。


「あたし、漢字は得意なんです」


そう言って、深く笑う。


それを見て、宮本さんも表情を緩めた。

「・・自力で当てたやつ、お前が初めて」


そう言った宮本さんの顔に、仄かに嬉しさが滲んだ気がした。