「ごちそーさま」


解放されたのは、しばらく経ってから。

無邪気に笑うハジメを見て、一気に現実に引き戻される。

コイツ…また……
思わず、自分の口元を押さえてしまった。

まるで、さっきのチョコを取り戻すかのような、味わいつくすかのような、深くて長いキス。

確かに食べたはずのチョコの味は、見事に拭い去られてしまった。

残っているのは、ハジメが残した余韻だけ。


…ダメだ。頭がボーッとする。


「さーてと。俺、眠いから帰るね」


固まっている私からスッと離れると、ハジメは何食わぬ顔で帰り支度を始めた。

何事もなかったかのように。


「あ、戸締まりはちゃんとしなよ?鍵はここに置いておくからね?」


部屋を出る間際、ハジメはいつものように一旦私を振り返った。

動揺を悟られたくない私は、頷くだけで精一杯。


「じゃあ、また明日」


パタンとドアが閉まる音を確認してから、私はその場に崩れ落ちた。