デビュー作を出版してから10年が経った。

俺は寂しそうな顔の父の遺影を抱えて佇んでいた。
きっと俺の顔もそれに負けないくらい寂しい顔をしていることだろう。
喪服、お坊さん、お経。
心は喪服の色の様に暗鬱としている。

葬式の準備は伯母が中心となってやってくれた。
俺は何も出来ず、うろうろした挙げ句に大人しくしててと言われる始末。

明日からどうやって生きていこう。
さっきから親戚の冷たい視線が痛い。
不謹慎ではあるが、父は財産を僅かしか遺していかなかった。
デビュー作一冊しか本を出していない、印税なんて米粒のような俺は金にあてがなかった。