望人は目を見開く。 自分の横か、はたまた後ろか。 男性ではない、女性の声で、そう聞こえた。 瞬間、慌てて周りを振り返ってみるが、車両から出てきた人ごみに紛れて、その言葉を一体誰が発したのか特定する事はできない。 まさか…という疑念に包まれながら、望人は初老の痴漢に再び視点を合わせる。 が、そこには既に老人の姿は無い。 望人が目を離した一瞬の隙を付いて痴漢は背中を見せてその場から走り去ろうとしている所だった。