ホールに着くと、私たちが好きなクラシックの演奏が始まっていた。


 ホールはとても広く、一番後ろの席からは、ステージの人が何をしているかわからないくらいだ。しかし音楽はとても心地よくホール全体に響いていた。妻も気に入った様子で音楽に浸っていた。


 私は音楽を聞きながら、イカダに乗った少年を思い出していた。少年は本当に遭難ではなかったのか、それとも、私が見たのはただの幻だったのか。


 どうやら、これから海が荒れ、嵐の中の航海になるらしい。少年がイカダに乗ってこの海のど真ん中で嵐を無事に乗り切る事ができるだろうか。例え大人でも、それは難しいだろう。


 しかし、今はこの楽しい時間を満喫することにした。イカダに乗った少年はきっと私の見間違いだったのだとそう思うようにした。

 外は今、嵐の真っ最中になっていった……