翌朝、いつもより長く寝たので、逆に調子が良くなかった私は、朝食をとる前に軽く散歩に出かける事にした。


 船は客室3000に、カジノや、レストランなどがあり、とても広いため散歩にもちょうど良かった。


 昨日イカダに乗った少年を見た船の甲板で、何か言い争いをしている大人と子供がいたので、少し様子をうかがっていると、どうやら2人は親子のようだ。


 しかし少女は穏やかではなかった。


 『たしかに昨日ここから見たんだから!』


 そう言うと、父親になだめられながら、2人は船内へと戻っていった。


 (まさかあの娘もイカダに乗った少年を……)


 きっとそうに違いないと思ったが、私が間に入ってイカダに乗った少年の話をしたところで、信じてもらえるわけでもない。


 むしろ、変な目で見られてしまう危険があった。これからの長旅でずっと船の中で一緒の時間を過ごすわけだから、それだけは避けたかった私は、朝食をとるため、妻の待つ部屋にもどることにした。


 部屋にもどると、テーブルにはチーズののったトーストや、野菜たっぷりのスープ、ローストビーフに生野菜がザックリ入ったサラダなど、とても豪華な朝食たちが、僕の帰りを待っていた。


 ちょうど用意ができたところらしく、二人で豪華な朝食をたいらげた。食後のコーヒーを飲みながら、あとで二人で船内を散策しようと話した。


 コーヒーを飲み終えた私と妻はすぐに着替えを済ますと、部屋に鍵をかけ、船内を見てまわった。廊下には夕焼けのような綺麗で真っ赤な絨毯が延々と見えなくなるまで続いていて、とても広く、大人二人が両手を広げて並んでも、かなり余裕がある位だった。天井もそれと同じ位高かった。


 船内のスピーカーから、船のちょうど真ん中にあるホールで、今から音楽ショーが催されると告知している。


 私たちは、胸をはずませながら、鼻歌まじりで船の真ん中にあるホールにむかって歩いた。