辺りを見渡しても陸1つない大海原を、1人の少年が、手作りの、丸太でできたイカダに乗り漂流していた。


 ただ、助けをもとめているわけでもなく、遭難してしまったわけではなさそうだった。私の目には、何か目的があって航海している様子に映ってみえた。


 私は思わず、豪華客船から彼にむかって大きく手を振った。しかし彼の目に私の姿はうつっていなかったらしく、返事はかえってくることはなかった。


 少しさみしさを感じたが、彼の無事を静かに願いながら彼が見えなくなるまで見送った。


 あたりは日が傾きだんだんと肌寒さを増していったので、私は部屋にもどることにした。


 部屋にもどると妻が暖かく迎えてくれた。ちょうどコーヒーを入れるところだったので、私もいただくことにした。


 私たちは結婚したばかりで、今新婚旅行でこの豪華客船で世界1周の旅をしている。


 私は先程見たイカダに乗った少年の話を妻に話した。すると、妻は笑い飛ばしてまったく信じてもらえなかった。


 暖炉のまえに腰をかけて、妻がいれてくれたコーヒーを1口飲んだ。確かにこんな事、誰に話をしても信じてもらえるはずもない。 

 『きっと疲れているのよ。』


 妻は心配そうに、私の肩に手をまわし、早めに寝るように促した。


  それほど疲れはなかったが、妻を不安にさせたくなかったので、そのまま床に着くことにした。