入部届けを済ませ、何となく家に帰る気分では なかったので、途中公園に寄った。

例の公園だ。

まだ午後2時位だったので、子供連れのお母さん達がいる。

私は桜の木の横にあるベンチに座り、ブランコに揺れている子供を

"ボー"

っと見ていた。

こういう時、時間が経つのがとても早い。

気がつけばブランコは止まっていて、公園には私一人になっていた。

"フー"

と、ため息をつき、桜の木を見上げた。

一枚、二枚と、花びらが落ちてくる。

そろそろ家に帰ろうとベンチを立とうとした時、

「坂本君ですよね?…」

一人の女の子が声をかけてきた。

"フッ"

と、顔を上げると、左手に犬のたずなを持った野田がいた。

「あ、同じクラスの…」

二人とも何を話してよいのか分からず、30秒程沈黙が続いた。

何か言わなくちゃ、という気持ちと、ガラじゃねーし、という気持ちが私の中で"じゃんけん"をしていた。

"あいこ"を三回程繰り返した時、野田が口を開いた。

「桜…」

「え?」

「坂本君の頭に桜の花びらが乗っている…」

と同時に野田は右手を私の頭にのばし、花びらを取ってくれた。

「似合ってたよ。」

野田の笑顔と夕日が重なり、私は久しぶりに、

"ドキッ"

っとした。

「隣、いいかな?」

私は小さくうなずいて、ベンチの上の桜の花びらを払いのけた。

「その犬の名前、何て言うの?」

野田が少し恥ずかしそうに答えた。

「…じゃんけん…」

私は自分の耳を疑った。

もう一度聞いた。

「へ?」

「だから、じゃんけん!」

野田は精一杯の大きな、それでいて小さな声で答えた。

「じゃんけんて、変な名前!」

私は思わず笑ってしまった。

野田は顔を赤くしてうつむいた。

私は空気を変えようと、質問を変えた。

「何で"じゃんけん"て名前にしたの?」

野田はうつむいたまま言った。

「笑わない?」

「うん、約束はできねーけど。」

野田は顔を上げて、笑ってくれた。

「"じゃんけん"てさ…」

私の笑うモードは一切消えていた。