いやいや。やっぱありえないっ!
仁はただの執事だもん。
自分に言い聞かせながら、仁と食事部屋まで歩いた。
仁が前を歩いているから、仁の背中しか見えない。
でもその背中は、とっても大きくて広い。
「男の子なんだ」って思い知らされる。
ちぇっ。
1個しか年が違わないのに。
何でこんなに違うんだろう。
「お嬢様、足元気を付けて」
「うん。……きゃっ!」
仁の言葉に適当に返事をしたのが間違いだった。
スローモーションで
自分が倒れていくのが分かる。
やばっ…!
ギュッと固く瞼を閉じた。
…………。
……あれ?
とこも痛くない。
ゆっくり目を開けると…。
目の前には仁の厚い胸板。
後頭部には手があり、胸板に押し付けられていた。
「仁っ!?」
「だから言ったのに」
「ご、ごめん」
仁は後頭部から手を離した。
あたしを見下ろす仁。
仁を見上げるあたし。
あたしは仁にかける言葉が見当たらず、
ただじっと仁を見つめていた。


