「以前、お嬢様と同じ
社長令嬢の方の執事をやっておりました」


そう言って、遠くを見ているような仁に
あたしは釘付けになった。


「その方は、お嬢様とは正反対でした。
全てのことを執事にさせ、お金の使い方は荒く…」

「そう…」

「最終的には、お屋敷にある全財産を持ち出して、
お屋敷から出て行きました」


より一層悲しい表情を浮かべる仁に
あたしは何も言えなかった。



「俺は思いました。『あの人は、“人”の心を失くしたんだ』と」

「………」


人の過去を知るのに、慣れてなかった私あたしは
返す言葉が見つからなかった。

仁を見ていられず、少しずつ視線を落とす。



「だから、よかったです!お嬢様と出会えて」

「えっ、どうして?」

「それは…秘密にしておきましょう」



さっきの表情とは裏腹に、
今度はニッコリと不敵な笑顔を見せた仁。

それから何度理由を聞いても、
仁は一向に答えてくれなかった。



日本に大金持ちなんて、いくらでもいる。

でも、誰もが『正常な心』を持っているとは限らない。


お金の使い方が荒かったり、
身の回りのことを執事に全部させたり…。

他にもいっぱいあるけれど、
あたしは、いつまでも心の清らかな人でいようと改めて思った。

仁が、教えてくれた。