「お、お嬢様」

「ん?」


仁は、あたしの手元を見て驚きの表情をしていた。



「何をしてらっしゃるのですか?」

「何って。明日の準備の他に何があるの?」

「…それは、俺の仕事です」


急に真剣な表情を浮かべだした仁に
あたしは少し驚いた。

仁と一緒にいる時間が短いのもあるけど、
笑顔が可愛い仁が、こんな真面目な表情を
するなんて思ってもみなかったから。



「じ、仁。いい?」

「…はい」

「あたしは“お嬢様”だけど、一人の人間なの」

「はい」

「自分のことくらい、自分でさせて?」

「ですがっ…」

「甘えたくないの」


仁の言葉を遮ってまで言った言葉に、
仁は困った表情を見せた。


「『全部執事がやってくれる』なんて、あたしは思いたくないの。
大体、柄じゃないんだよね~。“お嬢様”なんてさ」


鞄を見ながら苦笑いを零した私を
仁は少し微笑んで見ていた。

その優しい瞳に、吸い込まれそうになった。


「お嬢様は、立派なお方ですね」

フッと笑みを見せる仁。


「“自分”を持っていらっしゃる」

「どういうこと?」


あたしの問いに、仁は悲しそうな表情を浮かべて話し出した。