「蒼井優菜」

笑いながら口に出した名前に、男の子が今度は輝いた笑顔を浮かべた。

その笑顔に何故か胸が締め付けられた。


「じゃぁ、優菜ちゃんって呼ぶね。俺、小森純夜」


キラキラと笑顔のまま、自分の名前の漢字の説明をする彼

純粋の純に、夜って書いて純夜。


そう言って嬉しそうにふにゃりと笑った純夜君が、首を傾げた。


「優菜ちゃんは、どんな漢字なの?」


その笑顔のまま純夜君が首を傾げた。


首を傾げた時に、丁度キレイに日の光が彼の黒い髪とそこから覗く白い首筋を照らした。

「優しいに菜の花の菜。」


適当に答えて彼を見上げれば、彼は嬉しそうに笑っていた。


この笑顔だ。


あの青い空に向けられていた笑顔が今私に向けられている

そう思ったら、なんだか恥ずかしくなって少し俯いた。


ちらりと見てみれば、彼は思った通り結構整った顔立ちをしていた。


多分、ジャニーズにも引けをとらないんじゃないか。

そう思えるくらいに、彼は整っていた。

白いきめ細やかな肌
少し赤く染まった頬
通った鼻筋

その割には大きめの二重の目


かっこいい
と言うよりは、むしろ
かわいい
と言った方がいいと思う。

じっと見る私に困惑したように笑う純夜君が

「あ、」

と今度は残念そうに目を伏せた。

丁度彼の声に被さるようにアナウンスが響く。

次は私が降りる駅だ。


かばんを持ち直しながらちらりと純夜君に目を向ける。

「ねぇ、純夜君はどの駅で降りるの?」


いきなりな話題だと思う。

でも、それでも嬉しそうに笑って次の駅だよ、って明るい声で言った彼は、また何か言いたそうにあたふたし出した。

電車の速度が落ちるにつれて純夜君の顔が残念そうになるのが見ていられなくて扉が開く前に咄嗟に口を開いた。


「また、話してあげてもいいよ」


そんな事しか言えない自分に泣きそうになりながら純夜君を見上げれば、

キョトンとした後に

嬉しそうに笑った。


「楽しみにしてるねっ」


にっこり笑った純夜君の顔に自然と口元が上がった。