「あのさ、今さっきから大きな声で誰に話しかけてるの」


まるで迷惑だと言いたげに寄せられた眉に少し申し訳なくなる。


「…君に話しかけてたんだけど」


彼女の不機嫌そうな顔に申し訳なくなりながらもちゃんと相手には伝えた。


その瞬間に彼女は目をぱちくりさせた。


「…わたしに?」


大きな目をもっと大きくして聞き返した彼女に1つ頷く。


「君と話してみたいと思って」



そう言って素直に笑えば、彼女がまた眉を寄せた。


「あなた、初対面でそんな事言うのって、どうかと思う。」



正論だ。



少し困って、とりあえず笑ったら、彼女が額に手を当てて唸りだした。


「でも、いつも駅のホームにいる人でしょ。」

そう言って今度は少し眉を下げて聞いた彼女



その質問に俺は何度も首を振った。


「ふぅん…」


ただそれだけ


たったそれだけの事なのに、こんなにも嬉しいのは何故だろう


「ねぇ、名前なんて言うの?」


嬉しくて嬉しくて俺が発した質問に気づいたのは固まった彼女の瞳を見てからだった。