あたしは、欲しい欲しいってそればっかりで、啓ちゃんの気持ち、ちゃんと考えてなかった。



自分の事ばっかり。

啓ちゃんは、物じゃないのに…。



選ぶのは啓ちゃん。

愛美さんの元へ戻るのも、“恋”にするのも、啓ちゃんが決める事だ。




だからあたしは、もう逃げないって決めた。



始業式の次の日の放課後、あたしは啓ちゃんのマンションに向かっていた。



何となく今日はバスに乗らずに歩こうと思って、今、繁華街を歩いている。

啓ちゃんと一緒に、表彰を受けた場所。



公園が見えて、住宅街に入る。

そして、薄ピンクの屋根を見つけたら、マンションに到着。



昨日、気まずいまま別れた事を後悔する気持ちが、足の方から、ぐわんぐわん押し上がってくるようだ。


どうしよう。

怖気づいて、足取りがとまりそうになる。


逃げるな!逃げるな、美園!



あたしは一人で頷いて、階段を上りだした。

敢えてエレベーターは使わない。



きっと無意識に、部屋につくのを遅らせようとしているのかもしれない。



5階。

いつもより長く感じる。