このキーホルダーを、啓ちゃんに投げつけてやればよかったかな。
あいにく、キーホルダーはポケットの中だ。
あたしは、黙ってあの場を立って、ある所に向かっていた。
よく分らない所にある、美術室の隣。
汚い字で、『軽音部』。
あたしは一目もはばからず、泣きながら、ドアを叩いた。
返事がない。始業式だから、いないだろうに、あたしはドアを叩き続けた。
助けて!って叫ぶみたいに。
その時、「うっせぇな、誰だよ」とだるそうな声が聞こえ、ドアが開いた。
鮫島は、泣きじゃくるあたしを見て、びっくりしていた。
「…うわぁ~っ」
「えっちょ、なに!」
あたしは、鮫島のネクタイを引っ張りながら、なだれ込むように部屋に入った。
あたしが泣きやむまで、鮫島はティッシュの箱を渡したっきり、何も言わずに待っていてくれた。
大分、気持ちが落ち着いてきて初めて、他の人がいない事に気づいた。
よかった、いたら、またややこしくなる所だった。
鼻、真っ赤だし…。