啓太は、テーブルの上の湯のみと、食べかすを持って、キッチンに歩いた。


「もう話すことなんて何もないよ。帰って」



冷たい声。

啓ちゃんのこんな声初めて聞いた。


あたしに言われたわけじゃないのに、血がひいていくように、ひんやりとした気持ちになった。



愛美さんを見ると、眉毛をたらして、哀しそうな顔をしている。

そして寂しそうに笑った。




「…啓、変わったね」

「変わってないよ」

「変わったよ。何か、“男の人”になっちゃった」

「……変わったのは、愛美の方だよ」




“愛美”これも初めて聞いた。

雑巾をしぼられたみたいに、胸がきゅーっと苦しくなった。



愛美さんは変わらず啓太の後姿に話しかけ続ける。



「あたし、変わった?あの頃のあたしは、どうかしてたの。今は一人よ。もう別れた」




あの頃って?

もう別れた…ってどういう意味?



愛美さんの声は、少し荒いでいた。




「啓の方は?仲いいのね、この子と。えっと…」

「あ…、美園です」

「ふふ、美園ちゃんと。…付き合ってるの?」