「こしあんと、白あんと、チョコと、カスタード一つずつください」


あいよ、と髭に紺のジャンバーのおっちゃんが大判焼きを袋に詰めてくれた。

啓太のマンションの近くの、スーパーの駐車場の屋台。



今日はバカみたいに寒いから、鉄板の熱気がちょうどいい。

ついこの前、“もう11月だ”とか行ってたのに、もうすぐ12月がやってくる。



啓太におみやげ。


喜ぶ啓太の顔を想像して、あたしはちょっとニヤけた。

それをマフラーで隠して、啓太のマンションへと向かった。




啓太のマンションに行くなんて事は、別にいつも通りの事なのに、今日はやたらドキドキしてる。


だって、だってさ。

『仕方なく恋人のフリしてる』のと、『啓太の事本気で好き』なのじゃ、そりゃあ心境だって変わるってもんよ。



近すぎるからこそ、困る。



でも、今の生活を崩したくない。



このまま恋人のフリを続けたら?

本当の恋人じゃないけど、いつも傍にいられる。



もし告白したら?

契約は破棄。


啓太は、あたしの事をよそよそしい目で見るに違いない。

そんで気まずい雰囲気になって…。


い~や~だ~!

絶対に嫌…!



あーあ、あんなに近くにいるのに、届かないなんて。


切ないな。



あたしは大袈裟にため息をついて、エレベーターに乗り込んだ。


そして、5階のボタンを押して、閉まるボタンを押したとした時だった。