「うそ……なんで……?」


「嘘ついてどうすんだよ」


「いつから?」


「アンタがバイト始めた時から。ネームプレートにはまだ研修中って書いてあって……多分初日だったんじゃねえ?たまたま兄貴達と行ったんだよ」


「知らなかった……」


「俺も。アンタの名前とバイト先しか知らないし、年齢も、ドコの学校かもなんにも分からなかったけど、アンタの一生懸命働く姿が目に焼き付いて離れなかった。



悠斗の女、それさえも知らなくて」



いつもと違う祐介の表情。
ピタリと止まっていた噴水は再び溢れだしていて、飛び立った鳩たちもまた着地して足下を歩いている。


冗談なんかじゃない、真剣な告白に……私はただ固まっているだけ。


何を言えばいいのか
その答えが見つからない。


「彩音、俺……彩音の事が好きだから。でも、俺じゃ駄目か?なんて聞くつもりはない。悠斗の代わりになるつもりもないし、俺が悠斗を忘れさせるなんて言わねぇからな」


「え?何言ってんの……?」


「よくあるじゃん、そーゆー熱いセリフ。でも、そのセリフ吐く男って、たいがい当て馬フラグ立つんだよ。


彩音、返事は要らねえ。ただ、悠斗と別れてアンタがそろそろ男が欲しいって思った時、俺がいる事憶えておけ。他の男を見る前に、俺を考えろ。




これ、命令だから」



「ちょっ……!!!」



真剣な顔。でも最後はやっぱり意地悪な笑顔。








まさかの急展開に、私の心臓がバクバクうるさくて、きっと真っ赤になってる。


「祐介の事、これからもちゃんと見てる」


柄にもなく緊張してる私がやっとの思いで伝えた言葉は少し生意気な事かもしれないって焦ったけど、屈託のない笑顔で“おう”なんて返事をされて、もうその瞬間に頭の中は祐介で一杯になった。



でも、そんな気持ちはまだ伝えちゃいけない。


だってまだ、ケジメつけてないから。


「祐介、私……」


記念日前に別れるって伝えたかったのに、空気を読まない私のお腹がグルグルと音を立てた。



「ハラん中どんな虫飼ってんだよ」


なんて笑われた。逃げたい。