カウントダウン



6月の始め、運命の日。
いつも通りの帰宅途中で男の子のすすり泣く声に反応して近付いてみれば、うでと膝を派手に擦りむいた小学1年生くらいの少年が必死に痛みと戦っていた。


隣りには壊れた自転車。不憫過ぎる。そりゃ泣きたくもなる。



「大丈夫?消毒しなきゃバイ菌入っちゃうね。お姉ちゃん消毒液と絆創膏持ってるから手当てしてあげる」


丁度、通う高校の体育祭シーズンだった。保健委員の私は常に常備させられていたから、ラッキーだった。このシーズンじゃなかったらがさつな私が消毒液と絆創膏を持ち歩くなんてあり得ない。


なるべく刺激を与えないようにそろりとやっても、声を上げる少年に渇が入った。


「ほら、男なら泣くなって言っただろ?」


振り返れば、マンションから工具を持って出てくる悠斗の姿だった。


「お、良かったな。優しいオネエサンに手当てしてもらって。しかも美人。生意気なガキ〜」


ニコニコ笑ってその場を和ませて、不安げな男の子を励ましながら着々と壊れた自転車を直していく。



直る頃には男の子は笑顔になっていて、何度もお礼を言って帰っていった。



「お前、同じ高校か。……言うなよ」



これが私に悠斗が初めてかけた言葉。


住んでるマンションがこの場所だってバラすな。そんな意味。



「言わないよ。でも意外。もう色んな女の子が知ってると思った」


「そんなメンドクセェ事誰がするかよ。あー……お前名前は?」


嬉しかった。名前を知ってもらえるなんて、積極性のない私には奇跡だった。


「……菊地、彩音」


「ふうん。彩音、ね」


ニヤリと笑ったと思ったら、そのまま顔を近づけて




強引な、キス。



私のファーストキスは、色気も甘さもなんにもない。自転車にさしたオイルの匂いが漂うだけ、そんな感じで終わった。


「何すんのよ!」


「口止めに抱いてやろうかと思ったんだけど」


「ふざけんな変態!!」


できる事なら、陰では優しい王子のイメージでいて欲しかった。現実では違うって分かってたのに……。