「お前、祐介の言葉聞いてなかったの?彩音の弁当食う時、俺残した事あった?」


ちゅっ、と音を立てて離した唇は、いつもとは違う優しい声色。


「……ない、けど」


「それが俺の答え」


「でもっ!マズイって平気で言うし、夕飯は作っても食べてくれない事が多い。お弁当だって、捨ててるって思ってた……」


「俺が食べ物を粗末にすると思う?」


「思わない……けど。でも、じゃあなんでっ……」


「かーわいい。その泣いてすがる顔、そそる」


「ふざけてないで、ちゃんと答え、っふぁ……」



いつもいつも、肝心な事は何も言ってくれない。にやりと笑って、キスしたりそれ以上の事をして誤魔化される。



私が、何をしたの?


「好きだよ、彩音。だからもう祐介に食べさせんな。てか、明日から弁当は作らなくていいから」


「じゃあ……っ、分かった、よ。明日からは作らない」


“じゃあ、他の女の子のお弁当も食べないで”



好きと言われてついそんな事を言ってしまいそうになった。



甘い言葉に惑わされたり、騙されちゃ駄目。


だって、私はもうこの男と別れるんだ。あと58日、望まれる事だけをして、綺麗に別れる。



そう決めた。
祐介だって、悠斗と別れたら私とは関係のない人になるかもしれない。



泣かないって、決めたのに……止まれ、涙。



「すぐ泣くなよ、大好きだよ彩音。今日はウチに来い、分かった?」


「……うん」



溢れる涙を指で拭ってくれて、そして軽いキスを音を立ててする。


先に戻ると言って階段を降りる悠斗は、一人機嫌が良かった。



私だけ、心も身体も置いてきぼり。