カチャリと閉まる鍵の音はいつも侘しさを感じさせる。



マンションの廊下を足早に抜けて、エレベーターの中で考える事はいつも同じで、『今すぐに別れたほうがいいんじゃない?』


そんな言葉が脳裏に浮かぶ。悠斗の部屋の鍵を回す感触と、カチャリと鳴る音が何度も私の背中を押す。



もうやめちゃえば?



だけど、一階を差してドアが開くとその考えが消えていく。ここまで我慢したんだから一年目まで頑張ろうって。



何を頑張るのか自分でも分からない。もうきっと意地になってる。



そして自宅までの道程を、約15分ほど歩きながら今頃はもう美幸さんとやらに会ったのだろうかと考える。


今日は帰ってくるのかな?


美幸さんはいくつなんだろう。


笑顔とか、見せるのかな?


甘えたりとか、するのかな?



私には険しい顔しか見せてくれない。


褒められたりも勿論ないし、また行こうなんて誘われもしない。


また行くどころか、デートなんてした事ない。



悠斗の家しか知らない。



どうして私と、付き合ってるんだろう。




…………なんてね、別れるつもりで過ごしている筈が、悠斗のマンションからの帰り道は決まって心の中が悠斗でいっぱいになる。



馬鹿だな、私。



「ただいま……」


キーケースに収まるもう1つの鍵は私の自宅。それをカチャリと開錠すると、悠斗の部屋より寂しい部屋に出迎えられる。


主の消えた家。
父親は3年前に愛人と暮らすために出ていった。


母親もまた、若いホストに夢中になって今では音信不通になってしまっている。


二人の居場所は知っているけど、高校生にもなればお金だけ渡せば生きていけると思われていて、広い一軒家に一人で過ごす事を余儀なくされた。



本当は寂しいよ。
お金じゃなくて、私の存在を認めてくれる温もりが欲しい。




悠斗もまた、親に放置されているからその点では理解し合えるって思ってたのに……。とくに意味はなかった。