「ごちそーさん」



頭を往復していた彼の掌の温もりにボーッとしてる間、食べ終わったのかお弁当はきちんとしまわれている。


「あ、待って祐介!!」


先に戻ると席を立って、すでに入口にいる祐介の背中に慌てて声をかけた。


「なに?」



「さっきの事、悠斗には言わないで」


「……言わねぇよ。じゃあな」



言わないと言われた事にほっとしたと同時に、何故か心が苦しくない事に気付いた。


第2理科準備室の思い出はいつだって悠斗を想って苦しくて泣いている事しかなかったのに。



慰められた訳でもない。どちらかと言えば、けなされた。



なのに、言い合ったからなのか少しすっきりしていた。


「雅治ごめん、浮気じゃないよ」


リアル人体模型に話かければ、なんかそんな自分がおかしくて笑えた。




「あ、お米ひとつ残ってない」



なんとなく、祐介の食べたお弁当を確認したら、中味がキレイさっぱりなくなっている。





もしかしたら、口は悪いけど優しい人なのかもしれない。




山崎祐介の第一印象はそんな感じだった。