「翔さん、コイツ送って帰ります」


触れる事も、送る事も、“彼氏”の特権で。


名残惜しく手を離すしか出来ないもどかしさ。


翔さんが祝福するのも、味方するのも“彼氏”の特権。


腕を引かれて振り返るアンタを見て、引き寄せて閉じ込めて離したくないとさえ思えた。



「……離せ、祐介」


カッと熱くなる頭ン中を冷却したのは、今まで聞いた事のなかった悠斗の声。


無意識に彩音を掴んでいたことに対して、悠斗は本気で俺にキバを剥いた。



「……ごめんね、祐介」


いつになく淋しそうな彩音の声。


その表情と声は初めて話をした時と同じ、苦しいもの。


唇の動きだけでありがとうと形成して、言われるがまま悠斗の後をついていく。


別れ話をするんじゃなかったのかよ、なんてイラ立つけど、昼休みの事で出来なくなったのかと自分が嫌になった。



「祐介……辛いかも知んねぇケド、彩音ちゃんは悠斗の女なんだよ。分かれ、な?俺はヤだよ、お前に制裁すんの」


翔さんの言いたい事は分かってる。翔さんの優しさも……。


だけど



「翔さんは彩音を見て、それでも悠斗といろって言ったんすか?アレ見て彩音が幸せだと?俺は……」


「祐介、女一人のためにダチ失う気か?ダチだけじゃねぇ。お前の居場所、なくなるぞ?」


「翔さん、もし彩音の立場が茉莉さんだったとしても同じ事が言えますか?」


「っそれは……」


「俺は、好きな女の涙はもう見たくねぇ。何言われても、もう後には引けねぇ。すいません」



俺だって、彩音を好きになった瞬間は知らなかった。


こんなにも焦がれて、こんなにも貪欲に欲しくなるなんて。



誰を傷付けても、俺は彩音の笑顔が見たい。





願うことは、それが俺の隣りで、って事。