私が妄想にふけっていると伊藤さんがポツリ、
「後悔だけはするな」と呟いた

「・・・はい」

「俺も一度だけ、告白するかしないか迷ったことがあったよ」

「したんですか?」

「いや、出来なかった。
勇気がなかったんだ。あの頃は」

「昔?」

「二十歳ぐらいだったかな。
あのとき告白しておけばよかったと今でも思うことがあるよ。
もちろん、付き合えたかどうかは分らないけど告白しないで後悔するよりは、告白して後悔した方が尾を引かない気がする」

「うん」

「君には後悔してほしくないな。
一度逃したチャンスは二度と来ないよ」

「逃した魚は大きいってヤツですよね」

伊藤さんは微笑みながら何度も頷いた。


『チャンス』かぁ。
私は心の中で何度も呟いた。