「坂井のやつ、転勤したんだ」

「転勤!?」

「5月に、傘下の子会社に移動になったんだよ」

「どういうことですか?
坂井さん、神山さんと結婚したんじゃないんですか?」

「坂井は縁談を断ったんだ。
それだけ、君のことが好きだったんだよ」

「そんな・・・」

私は呆然とした。

神山麗子さんと結婚して、すべてが上手くいっているものとばかり思っていた私にとって、彼の転勤は想像もしていないことだった。

「里美、坂井さんに電話しなよ」

直子が詰め寄るように言った。

私は鞄の中の携帯を探した。

焦って上手くつかめなかった。