彼は黙ったまま静かに聞いていた。


「坂井さんは優秀な人なんだから、わたしみたいな石ころにつまずいてちゃ駄目なんだよ」


まずい。涙がこみ上げてきた。


もう胸が張り裂けそうだよ。


「里美。
君は、もう決断したんだね。
僕のために身を引こうと・・・」


「違うよ、わたしは自分のためだよ。
ほら、私たち付き合ってまだ一ヵ月半でしょ。
キスだってしてないし、別れるならいまのうちだよ」


「僕の、君への気持ちは変わらないよ。
愛しているのは里美だけだよ」


彼はそう言うと、静かに私を抱きしめた。

初めて彼に抱きしめられた。


彼の香りがした。


そこで私たちはサヨナラをした。