「ほら、それに好きな歌なんかも全然違うでしょ。坂井さんヒップホップとか聴かないし」

(・・・嘘だよ。わたしだってヒップホップなんて聴かないよ)


「テレビだって見る番組ちがうから話し合わなくてつまらないよ」

(・・・全部嘘に決まってるじゃん。テレビなんて無くたっていいよ)


しゃべっているうちに、胸がいっぱいになってきた。

この世で一番大好きな人に、こんな嘘を言っていることが辛かった。


「それでもいいじゃないか。
話が合わなくたっていいじゃないか」

彼は優しい目でわたしのことを見た。


(ダメだよ、そんな目で見たら。わたし泣きそうだよ)


「坂井さんは麗子さんと結婚したほうが幸せになれるよ」

「幸せ?」

「坂井さんには出世してもらいたいもん」

「出世のために彼女と結婚しろと言うのかい?」

「そうだよ。
それぐらいのズルサは必要だよ。坂井さん、いい人すぎるから。
坂井さんが偉くなったら、その時は私を愛人にでもしてもらおうかなぁ。フフ」