運命の火曜 夕方5時

終業のチャイムが鳴る


約束の時間に工場の正門へ行くと、黒塗りの乗用車が私を待っていた。

後ろの席に乗せられると車は静かに走り出した。

レースのカーテンがあるなんて、これって重役専用の車だね。


車の中で私は今朝、坂井さんに言われたことを思い出していた。


〈昨日、はっきり断ったよ。
自分には恋人がいるから麗子さんとは付き合えないとね。
だから里美も自信を持つんだ〉


しばらく走ると、車は大きな屋敷の門に入った。

高級料亭のようだ。


車を降りると上品な着物姿の女性が私を出迎えた。

「お待ちしておりました。
さあ、どうぞこちらへ」

物腰の柔らかな美しい人だ。その感じからして、この料亭の女将のようだった。